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東京地方裁判所 昭和44年(ワ)11664号 判決 1973年11月05日

原告 日光商事株式会社

被告 東洋郵船株式会社

当事者参加人 国

国代理人 増山宏 外二名

主文

一  被告は原告に対し、原被告間の昭和四三年一月一七日付動産売買契約に基づく残代金並びにこれに対する遅延損害金債務として、合計一〇〇万二、九九〇円及び元金内金四三万一、〇四〇円に対する昭和四三年六月三〇日以降完済に至るまで一〇〇円につき日歩三銭の割合による遅延損害金債務を負つていることを確認する。

二  原告は参加人に対し、原告が被告に対して有する昭和四三年一月一七日付動産売買契約に基づく売買代金残債権四三万一、〇四〇円及びこれに対する昭和四五年八月二三日以降完済に至るまで一〇〇円につき日歩三銭の割合による遅延損害金債権、並びに右に関する遅延損害金債権五七万一、五〇〇円についての取立権が参加人にあることを確認する。

三  被告は参加人に対し、一〇〇万二、五四〇円及び内金四三万一、〇四〇円に対する昭和四五年八月二三日以降完済に至るまで一〇〇円につき日歩三銭の割合による金員を支払え。

四  訴訟費用は、

(一)  原告に生じた費用はこれを二分し、その一を原告その余を被告の負担

(二)  参加人に生じた費用はこれを二分し、その一を原告、その余を被告の負担

(三)  被告に生じた費用は被告の負担

とする。

五  この判決は第三項につき仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

(本訴請求として)

1 主文第一項同旨

2 訴訟費用は被告の負担とする。

(参加人の請求に対して)

参加人の請求を棄却する。

二  参加人

1  主文第二、及び第三項同旨

2  訴訟費用中参加人と原告間に生じたものは原告の負担とし、参加人と被告間に生じたものは被告の負担とする。

3  主文第三項につき仮執行宣言

三  被告

(本訴請求に対して)

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

(参加人の請求に対して)

1 参加人の請求を棄却する。

2 訴訟費用は参加人の負担とする。

第二当事者の主張

一  原告の請求原因

1  原告は被告との間に、昭和四三年一月一七日原告を売主、被告を買主として、別紙<省略>取引品明細表記載の松下電工株式会社製照明器具について左記内容の売買契約を締結した。

(一) 代金 九〇〇万円

(二) 支払方法 昭和四三年六月二九日現金にて支払う。

(三) 遅延損害金 一〇〇円につき日歩三銭

(四) 納期 被告提出の仕様書による原告の作成図面を被告が承認した日より五〇日以内

2  その後設計変更に伴い、別紙<省略>追加分明細書記載の物品につき前同様の内容をもつて代金二三万一、〇四〇円として追加売買契約が成立した。その結果売買代金は合計九二三万一、〇四〇円となつた。

3  原告は右売買の目的物を夫々納期限である昭和四三年六月二九日までに納入した。

4  被告は右売買代金について、昭和四三年七月二〇日までに現金で三〇〇万円、その後同年八月二一日及び同年一二月二〇日の二回に分けて原告が振出した別紙<省略>。約束手形明細表による約束手形一一枚(額面金合計五八〇万円)により、それぞれ同明細表支払期日欄記載の年月日に額面額欄記載の金員を支払つた。

5  その結果、被告の債務は前記明細表記載のとおり残代金四三万一、〇四〇円及びこれに対する弁済期限の翌日である昭和四三年六月三〇日以降支払済に至るまで約定の日歩三銭の割合による遅延損害金のほか、前記約束手形による内金支払分についての前記支払期限の翌日より右内金支払日までの前同割合による遅延損害金五七万一、九五〇円となつた。

6  被告は右金額の債務を負つていることを争つている。

7  よつて原告は被告に対し、本件売買契約に基づく残代金遅延損害金が、右原告主張のとおりの金額であることの確認を求める。

二  原告の請求原因に対する認否

1  請求原因事実1は認める。

2  同2は否認する。

3  同3は否認する。

4  同4は認める。

5  同5は否認する。

6  同6は認める。

三  原告の請求に対する被告の抗弁

1  昭和四三年一二月二〇日原被告間に、被告が買受けた器具のうち別紙取引品明細表記載のNo.J、埋込バツト一〇〇V五個(単価一万九、五〇〇円)、及びNo.L、埋込バツト一〇〇V九六個(単価九、五〇〇円)、以上価額合計一〇〇万九、五〇〇円についての売買契約を合意解除する、被告は残代金支払のために約束手形六通、額面合計一三〇万円を被告に交付する、右期日において約束手形額面金額を支払うことによつて本件売買契約における被告の債務はすべて精算されたものとする旨返品並びに残額免除の合意が成立した。そして被告は原告も認めている如く同日別紙約束手形明細表記載六ないし一一の手形(額面合計一三〇万円)を振出し原告に交付し、期日にその手形金をすべて支払つた。これによつて被告の債務はすべて消滅したもので現存しない。

2  売買契約において代金支払期限が定められていても、右代金支払のために約束手形が振出交付されたときは、右代金支払の期限に拘わらず、約束手形の満期日まで期限を猶予したものとみるべきであり、これは商取引における一般的慣行でもある。従つて少くとも手形金支払日までの遅延損害金の請求権ありとする部分は理由がない。

四  被告の抗弁に対する認否

1  抗弁事実1のうち、被告がその主張の約束手形を振出し原告に交付し、その後期日にその手形金の支払をしたことは認めるもその余は否認する。本件売買物件は既製品ではなく被告の仕様書に合わせて製作したものであるから容易に合意解除できないものである。

2  同2は否認する。

五  原告の再抗弁

本件売買契約の代金は本来ならば金一四三三万二、二〇〇円となるものであつたが、被告が現金で一括支払うから減額されたいというので手形による支払の場合の金利等を考慮し、その条件で大巾に減額し代金を九〇〇万円としたものである。その後になつて長期の約束手形による支払に変更するならば減額することはできない筋合である。従つてかりに被告主張の如き商取引における遅延損害金免除の一般慣行があつたとしても本件においてはこれによることは妥当でないというべきである。

六  参加人の参加請求の原因

1  原告の請求原因1ないし5に同じ。

2  参加人(所管庁・淀橋税務署長)は、原告に対して昭和四五年八年一八日現在において昭和四五年度分法人税九五万七、六〇〇円、無申告加算税九万五、七〇〇円および右本税額に対する昭和四四年六年一日から同四五年六月二八日まで一〇〇円につき日歩二銭、同四五年六月二五日から完納に至るまで一〇〇円につき日歩四銭の割合による延滞税の租税債権を有している。

3  そこで参加人は前項の租税債権を徴収するため、昭和四五年八月一八日原告が被告に対して有する第1項(原告請求原因第5項)の物品代金債権残四三一、〇四〇円及び同項記載の遅延損害金のうち金五七一、五〇〇円を差押え、同年八月二二日債権差押通知書を被告に送達した。

右により参加人は、国税徴収法六七条の規定により右債権の取立権を取得した。

4  原告は、右債権について参加人に取立権があることを争つている。

5  よつて参加人は原告に対し、右債権についの取立権が参加人にあることの確認を求め、被告に対し右債務の支払を求める。

七  参加請求の原因に対する原告の認否

全部認める。

八  同右に対する被告の認否

1  参加請求の原因事実1に対する認否は、原告の請求原因事実1ないし5に対する認否に同じ

2  同2は不知。

3  同3のうち、参加人がその主張の日に被告に対し債権差押通知書を送達したことは認める。その余の事実は不知。

九  被告の抗弁

原告の請求に対する被告の抗弁(三、1及び2)に同じ。

一〇  抗弁に対する認否並びに再抗弁

原告の被告に対する認否並びに再抗弁(四、1及び2、五)に同じ。

第三  証拠<省略>

理由

一  原告及び参加人らの被告に対する各請求について

(一)  原告請求原因1、4、及び6の各事実は当事者間に争いがない。

(二)  原告請求原因2及び3の各事実は、<証拠省略>を総合することによつて認めることができる。同認定に抵触する被告会社代表者本人尋問の結果は採用できない。

(三)  そこで被告の抗弁1につき判断するに、同事実のうち被告がその主張の約束手形を振出し原告に交付し、その後期日にその手形金の支払をした事実は当事者間に争いがない。しかしその余の事実に関しては、同主張に沿う被告会社代表者本人尋問の結果は採用し難く、ほかにこれを認めるに足る証拠はない。すると被告の抗弁1は理由がない。

(四)  つぎに被告の抗弁2について判断する。本件各証拠を検討するも、商取引において契約上代金支払期限が別に定められているにも拘わらず、何らの合意なしに、右支払期限と異なる満期日を記載した手形を授受することによつて、当然に代金支払期限の猶予又はすでに発生している遅延摂害金の免除の効果が生ずるとする一般的な慣行の存在を認めることができない。

そこでつぎに本件において、被告が手形を原告に交付した際、右手形の満期日まで、本件代金支払の期限を猶予し、且つすでに発生していた遅延損害金を免除する旨の合意が成立したか否かにつき判断を進めるに、一般に代金支払のために手形が授受されたときは、その有価証券性に照らし、特段の事情がない限り、右手形の満期日まで本来の代金支払の期限を猶予し、且つ満期日に右手形金が支払われることを条件に手形授受の際にすでに発生していた遅延損害金を免除する旨の合意が成立したものと推定することが可能である。そこで本件に右の特段の事情が存在するか否かにつき判断するに、<証拠省略>を総合すると、本件売買代金(本契約分)は、原告が通常販買価格として定めている単価に従つて計算すると、一四三二万四、二〇〇円となること、しかし被告が約定の日に現金で支払するから減額して貰いたいと申し出たため、原告は右の如き現金による支払があると信じこれを前提として減額を承諾し、五三二万四、二〇〇円を減じて代金を九〇〇万円としたこと、そして原告は昭和四三年六月二九日までに目的物を被告指定の場所に納入したが、被告は約束の代金支払期日である右同日に右代金の支払をしなかつたこと、その後原告の催告によつて被告は昭和四三年七月一日現金二〇〇万円、同年七月二〇日現金一〇〇万円、同年八月二一日手形五通額面合計四五〇万円(別紙約束手形明細表一ないし五)、同年一二月二〇日手形六通額面合計一三〇万円(同表六ないし一一)を原告に交付したこと、右各支払金又は手形はいずれも内金として支払われたものであり、特に被告より充当の指定がなかつたため原告はーこれを元金に充当したこと、しかし現金にて支払われた分はともかく約束手形による支払については、いずれも満期が振出日より五ケ月ないし一年先に及ぶ長期のものであり、前記契約の趣旨に反するものであつたため、原告は右の如き支払方法には異議がある旨を表示してこれを受領したこと等が認められ、同認定に反する被告会社代表者本人尋問の結果は,採用できない。右事実によると、本件においては期限の猶予、遅延損害金免除の合意成立の推定を妨げる特別の事情があるものというべく、他に右合意成立を認めるに足る証拠はない。従つて被告の抗弁2も理由がない。

(五)  すると被告が原告に対して負つている本件売買代金残債務は原告請求原因5記載のとおりになることが明らかである。

そして参加人が原告に対しその主張の如き租税債権を有していたこと、そこで参加人は原告の被告に対する右売買代金残債権のうちその主張の部分について差押えたことは、<証拠省略>によつて認めることができ、右差押通知書が被告に送達された事実は当事者間に争いがない。

(六)  以上によると、原告の被告に対する本訴請求、参加人の被告に対する参加請求はいすれも正当である。

二  参加人の原告に対する請求について

参加請求の原因事実はすべて当事者間に争いがない。右事実によると参加人の原告に対する参加請求は正当である。

三  結論

以上により、原告の被告に対する本訴請求、参加人の原告及び被告に対する各参加請求をいずれも正当として認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、仮執行宣言につき同法第(九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 井上孝一)

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